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2016年8月1日月曜日

副島隆彦「トランプ大統領とアメリカの真実」


副島隆彦「トランプ大統領とアメリカの真実」2016、日本文芸社

アメリカの大統領選挙が、2016年11月8日に行われる。この本の中で、著者は共和党のトランプが民主党のヒラリーを破って、大統領になるだろうと予測(予言)している。本書19ページには、次のように書かれている。「私は5月22日にトランプが大統領になると決断した。自分なりに10日間真剣に考え込んだあとでの結論だった。私の手元に集まった情報をまとめて、分析した結果、このように判断した」。

この本の刊行日は、2016年7月10日、私が本を手にしてこの文章を書いているのが7月30日。ちなみに、7月18日から22日には共和党全国大会、7月25日から28日には民主党全国大会があって、それぞれトランプとヒラリーが大統領候補に指名されている。 かくして、本書は予測本ということで、かなり時事的な読み物であるとも言えよう。大統領選挙の結果が判明した後には、まずは余り読まれない気もする。仮にトランプが勝っても、或いはトランプが負ければ、なおさらだ。

ところが、私自身はこの本を読んで、色々と得るところがあって良かったと思っている。予測(予言)の背景が、あれこれと多岐にわたって書かれていて、それらがとても面白い読み物になっているのである。 多岐にわたって、というのは、話が今回の大統領選挙の経緯だけに留まらないということ。トランプの個人的な事情や資質、考え方や来歴、資産などが、図表や系図、写真などを用いて解説されている。トランプは、自分のことを"I'm wheeler-dealer"「私は駆け引きし、取引する人間だ」と言っているらしい。それは確かに、ヒラリーなど既存の政治家とは、かなり異なる資質であろう。

更に、アメリカの政治状況、特に民主党と共和党の思想派閥の全体図が示されて、トランプとヒラリーが、どの勢力と繋がっているかが説明されていて有り難い。民主党は、大労組、急進リベラル派、ネオリベラル派、ニューデモクラット派の4つに分かれる。うち、ヒラリーはネオリベラル派。一方、共和党はネオコン派、サプライダー派、保守本流(バーキアン)、アイソレーショニスト派、チャイナロビー派、宗教右派、リバータリアン派の7つに分かれる。これらのうち、アイソレーショニスト派、宗教右派、リバータリアン派が、トランプ支持だという。著者は、リバータリアンの思想に共感して紹介本も書いているとのこと、そこでリバータリアン思想の説明は、特に具体的で分かり易く役に立った。

さて、トランプか、ヒラリーか。どちらが大統領になるかで、今後の世界は大きく異なる、と著者は指摘している。日本における新聞などの報道では、ヒラリーがこれまでの経験を活かして、安定した政治を行うだろうとされる。一方のトランプは、これまで破天荒な発言を繰り返しており、大統領になればとんでもない政策を繰り出すのでは、と心配されている。

ところが著者は、ヒラリーではなく、トランプに期待しているようだ。その理由は、ヒラリーのメール事件やベンガジ事件が絡んでいるようだ。しかし、この件に関連した説明は、この本だけでは私には今ひとつ十分理解出来なかった。 政治に関心を持つとして、国内政治を考えるだけでは、明らかに不十分だ。国際情勢を考えるとしても、自国政治の延長で考えても、自国の話にしかならないだろう。アメリカを始め、各国の政治やその背景を理解する努力が必要なのだ。アメリカ大統領選の前に、この本に出会って良かったと思う。これからは少し視点を変えて、アメリカ大統領選挙の今後の展開や、その帰結に注目していきたい。