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2013年3月20日水曜日

DNAでたどる日本人10万年の旅

DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?
崎谷満『DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?』昭和堂、2008
 
 そもそも、DNAで日本人の10万年をたどることが可能だということが驚きである。「DNA多型分析は、確実な生物学的な指標として過去のヒトの移動を追跡することが可能である」と、著者は最初に書いている。そして、現生人類のアフリカでの誕生、次いで一部のグループの出アフリカ、更に世界各地への進出と、実に壮大な話にすっかり圧倒される。しかし私の場合、本を読み進めて行く際に、内容を理解するのにかなり手間取った。私が持っている先入観が、多分理解の障害になったと思う。原始・古代に関する予めの先入観が、この本ではぐらりと揺さぶられる。

 この本で用いられているDNA多型分析は、男性系列で繋がるY染色体に関するものである。10年くらい前に、世界中の男性から集められたY染色体多型の分布が調べられたらしい。その結果から、現生人類は9万年くらい前にアフリカで誕生したと推測される。(女性の系列で繋がるミトコンドリアDNAからの推測では20万年~14万年前らしい。)

 又、Y染色体多型の種類は、大別して五つのグループに分けられるようだ。うち、二つのグループはアフリカに留まり、残りの三グループがアフリカを出たことが分かっている。この出アフリカの三グループの末裔が世界に広がって、今日に及んでいることになる。この本では、特に男性のY染色体多型の分布を基に、日本列島におけるその特異性が強調されている。日本には、出アフリカの三グループすべてが到達して現存しているのである。

 この本に盛り込まれた内容は豊富であり、目次は次のようになっている。

第1章 日本列島におけるDNA多様性の貴重さ
第2章 多様な文明・文化の日本列島への流入
第3章 日本列島における言語の多様な姿
第4章 日本列島における多様な民族・文化の共存
第5章 多様性喪失の圧力に対して

 日本列島に、最初に現生人類が到達したのは、後期旧石器時代である。そこから、新石器時代に入り、縄文文化、弥生文化と、それぞれの時代に様々なグループが流入する。それらが、現在生きている日本人男性のY染色体多型にそれぞれ該当する。それらのグループのY染色体多型の分岐時期、そして大陸から日本へと到る移動経路も、おおまかに推測可能のようだ。各時代の民族・文化とY染色体とが、重ね合わされる。そして、各時代に流入したグループのY染色体が現存するということは、それぞれが日本列島では生き延びることができたということだ。

 一方で、各グループの大陸における移動経路には、今やY染色体の多様性が少ない。例えば、縄文文化の中心となったグループのY染色体は、日本でしか見られない。同じ系統のグループは、遠くチベット・ビルマにしか現存しないらしい。そこから著者は、東アジアにおける民族の存亡をかけた凄まじい戦争の歴史を想定している。日本列島には、大陸で生存競争に敗れたヒト集団が流入したというのだ。

 この本はY染色体多型を基にした分析だが、現在調査中であるらしい女性系列のミトコンドリアDNAの分布が明らかになると、更に新たな発見が生まれそうだ。こうしたDNA分析から日本人や日本文化を考える視点は、今後ますます重要になるだろう。

DNA 日本人になった祖先たち―DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス) DNAから見た日本人 (ちくま新書)

2013年3月14日木曜日

数学ガール

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)
結城浩『数学ガール (数学ガールシリーズ 1)』ソフトバンククリエイティブ、2007。 

オイラー展開にまつわる数学の証明を軸にした小説風の読み物。タイトルだけをよむと『もしドラ』系をイメージするが、中身は相当に数学的な証明が続く。恐らく読み手として想定されているのは、オイラー展開をすでに知っている人という感じだろう。

理系数学の知識がない身としては、途中の証明プロセスはよく分らないところが多かった。登場人物でいえば、テトラと同等か、彼女にも及ばない。とはいえ一方で、高校のころに勉強したような数学を思い出しながら、こういう授業をどこかで受けられていたら、もう少し数学の楽しさがわかったかもしれないと感じる。

抽象化された数学式は、証明の空間としてあるようだ。昔の授業のさいに、教師が延々と黒板だけに向かって式の展開やら証明を書き続けていたことを思い出す。だからなんなのだ、結果さえわかっていればそれで十分ではと、今でも、思うけれど、その証明の空間の楽しさこそ、彼らは本当は伝えるべきところだった。それは、自分が証明してみせるもののではなくて、その意味を伝え(たぶん、この力が、教師にはほとんどないのだろう。単純に、その才能はないから)、生徒を引っ張り込める空間とみるべきだった。

わからないなりにも、いくつか面白いところがあった。例えば、素数に1を含めない理由は、素因数分解の一意性が崩れてしまうからだという。なるほど、そういう理由かと思った。また、振動するようにみえる数式を回転として捉え直すとsinθやらcosθでの記述になるということも、新鮮だった。数学の初歩なのかもしれないが、引き続き、読んでみようと思う。

数学ガール フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2) 数学ガール ゲーデルの不完全性定理 (数学ガールシリーズ 3) 数学ガール ガロア理論 (数学ガールシリーズ 5)