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2012年10月22日月曜日

ソーシャルエコノミー

ソーシャルエコノミー 和をしかける経済
阿久津聡他『ソーシャルエコノミー 和をしかける経済』翔泳社、2012

 ソーシャルメディアを中心に活性化するユーザー同士のコミュニケーションやコミュニティを前提にして、経験経済に変わるソーシャルエコノミーなるものの成立を問うている一冊である。主張そのものは現実に沿うところが多く、企業と顧客が一緒になって盛り上がる、楽しむ、あるいは考える、という現象を肯定的に捉えようとしている(企業、は場合によってはいらないのかもしれない)。

 もう少し抽象的な内容かと思ったが、極めて実用的で読みやすい本である。ソーシャルエコノミーの成立をもとにして、企業はいかに新製品開発やマーケティングを行なえばいいのか。1.共益のネタで同好コミュニティを作り、2.盛り上がってきたら一つ上の目標を掲げて競争を促進させ、3.新規参加を巻き込みながら更に活性化させていく。2のあたりが大事なところのようだ。

 数年前のグランズウェルや、あるいはパブリックといった本が指摘してきた内容と大体一致するだろう。違うとすれば、それが日本らしい「和」なるもののあり方であると考えられていることと、それゆえにAKB48や初音ミク、さらにはB-1グランプリといった日本の事例で語られている点であろうか。

 というわけで、最初に写真やら何やらがあってミーハーな本だと感じるが、読み始めれば個人的にはほぼ違和感はない。指摘されている内容や方法は実際にその通りであると思う。カゴメの凛々子プロジェクト等は本当にいい話だと感じた。

 しかし最後の方の議論はよくわからない。冒頭の写真にもつながるが、変な英語で書かれたパワーポイント資料のようなものが登場する。和だったのではないだろうかとも思うし、今までの納得感が急になくなる。

 最後には知識創造論との接続が試みられており、これでいいのだろうかと思う。ソーシャルメディアは、さすがに知識創造論と相性が悪いだろう。それが、賢明にも、形式知–形式知だといわれるとき、僕たちはネット上での熱狂をどう理解すれば良いのだろうかと問い直さざるを得なくなる。

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)  知識創造企業