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2012年10月2日火曜日

戦後史の正体

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)
孫崎享『戦後史の正体』創元社、2012

 この本は、今年8月に刊行された。ある資料によれば、僅か二ヶ月で既に17万部のベストセラーになっているらしい。某新聞紙上に掲載されたこの本の書評が、ツイッター上では著者自身も巻き込んで論争になったりした。多くの人の関心を集めていることは、間違いがない。

 この本の特色は、三点あると思う。まず第一に、著者が外務省の元高級官僚(国際情報局長、駐イラン大使など歴任、その後防衛大学校教授も)であり、その体験や知識を用いて日本の戦後外交を論じていること。第二には、日本の戦後史を、米国からの圧力とそれへの抵抗を軸にして記述しているということ。第三には、ポツダム宣言受諾からミズーリ号上の降伏文書調印、アメリカの占領時代、日本の独立、日米安保の改定問題、沖縄返還、ロッキード事件、プラザ合意による円高、湾岸戦争、冷戦終結、自民党の下野と細川政権など、戦後の歴史的な重要事項について、資料に基づいて丁寧に解説していること。又、冷戦終結から21世紀に入り、現在の民主党政権やTPPまで、時事問題も論じている。

 特に話題になっているのは、、三つの特色のうち二番目の、米国との圧力・抵抗関係から戦後史を見る、という点であろう。「米国に対する『追随路線』と『自主路線』の対立という視点から大きな歴史の流れを見ることによって、はじめて日本人は過去の歴史を正確に理解することができ、日本の行く末も見えるようになるのだと思います。」と著者は冒頭に書いている。更に外務省OBとして、現場での体験を活かして、日本の戦後史にこうした視点を提供することが使命と考えたようである。

 私は、この本が話題になった理由は、他にもあると考える。日本の戦後史について知りたい、改めて考えたい、日本人にそうしたニーズが高まったからではないか。敗戦から、もう67年が経った。明治維新から現在まで144年。そのうち、明治維新から太平洋戦争開戦までと、戦争の4年近くを経て、敗戦後から現在までの期間は、今やそんなに違わない。ふと思いついて、高校の日本史教科書(山川出版社)を調べた。明治維新から太平洋戦争開戦までは、100ページを費やしている(全体は387ページ)。そして戦況に9ページ。ところが、敗戦から現代までは、たった40ページしかないし、内容も全く薄い。戦後史は、まだ国民の共通知識となっていないようだ。

 時事問題を語るにも、今や敗戦後の日本の歴史に関する知識が必要になっていると思う。利害関係者が生存している上に、今だ確定しにくい事柄が多いため論争を免れないとしても、様々な議論を提示したり学んだりする時期になっているのではないか。この本に対しては、典型的な「陰謀論」であるとか、歴史を仮説や推論で単純化している、との批判がある。しかし、図式的な陰謀論で議論が成り立って居るわけでもなく、むしろ話は事柄の細部に及んでいる。又、歴史とか人間に関しては、そもそもどんな議論であっても単純化のそしりを免れまい。少なくとも私の場合は、この本から得た知識に、随分驚かされた。又、日本の戦後史を、改めてしっかり学ぼうという意欲を、強くかき立てられた。

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書) 戦後史 (岩波新書 新赤版 (955)) 戦後日本外交史 (有斐閣アルマ)